3.ワタル(株) 井上英司さん

<プロフィール>
1967年生まれの42歳。
大学の在学中1988年より1年間、 ブラジルのサンパウロ州フランカ市にあるコーヒー輸出業者の買い付け所で研修。 大学を卒業後にロースターで2年間勤務され、 現在は生豆の商社ワタル(株)で働かれています。 今までに取得された資格は、 2000年Certificado E Classificador E Degustador De Cafe(ブラジル鑑定士)
2001年東京穀物取引所認定検査員 認定
2005年Specialty Coffee Association of America? Certifed Cupping Judge
(SCAA認定カッパー)
2006年Cup of ExcellenceR International Cupper (Cup of ExcellenceR 国際審判員)
2007年Specialty Coffee Association of America? Certifed QCupping
(Qグレーダー)


本当に凄い!と思う奴は、他人が認めることであり、実力以外の何者でもありません。
産地へ行く、現地で商品を買う、誰でも出来ます。
それ以上のことをしないと今後残れないのは明確。兎に角トライしようと思っています。
このように話される井上さんに、私は大きな期待と力強さを感じます。
それでは、井上さんのコーヒーストーリーをのぞいてみましょう!

コーヒーの素晴らしさを求めて。
はじめに。
まず新しいサイトの立ち上げおめでとうございます。 この喜ばしい時に小生のこうした記事を掲載していただき、まず感謝申し上げます。 現在日本でも、世界でもスペシャルティコーヒーブームが起こっています。 ブームと言うのは一時的な現象を指すので、ブームではなく トレンド(流れ)と呼ぶ方が良いのかもしれませんが、 こうした中で小生が感じた事、思うことを、私見的ですが述べさせていただこうと思っています。 当然勉強不足で若輩者の小生が述べるので、多々不適切な部分が含まれているかもしれませんが、 このように考えている者もいるのか!と、さらっと読み流していただければ幸いです。

今回は年に数回生産地を回り、買い付け、品質検査をする立場を色濃くしたものにしました。
これは小生が思う理想的なコーヒーは何か? コーヒーの素晴らしさは何か?という部分、農園で感じた事を直接お伝えしたいからです。 日本のコーヒーマーケットは嗜好品というジャンルで括られているのですが、 もはや日常化されたグループの嗜好品という括りではないかと思っています。 不況に強い商品の代表格であるコーヒーですが、 少しでも何かにお役立てしていただければ幸いとおもいます。

世界のコーヒー。
現在、アメリカを中心に世界のスペシャルティコーヒーが動いていると感じます。
何を持って<スペシャルティ>と呼ぶのか? この基準は各企業で異なりますので、 当然これは当社の<スペシャルティ>基準には当てはまらないよ! という方もいると思います。
しかしコーヒーの品質をランク分けしますと下から <コマーシャル>
<プレミアム>
<スペシャルティ>
<トップ・オブ・トップ> という大まかに分けて4つ程度のブルーピングができます。
この中でアメリカは<スペシャルティ>以上の品質を 世界最大に消費していると小生は感じています。 私の友人に、アメリカで高品質なコーヒーを買い付けする企業に勤務する者がいます。 彼とはたった1年ほどの付き合いでしかありませんが、 日本のビジネスで困った時にヒントをもらうためにメールをする仲で、 アメリカ人らしい、非常にストイックかつ、 レスポンスの早い品質管理理論を返事してくれ、私にとって大切な友人の一人です。
彼の理想は非常に高く、常にはじめに立てたコンセプトに沿って買い付けをしています。彼とのメールで小生によく言われる事が 『お前は何がしたいの?』
『お前の理想のコーヒーは何?』
『お前はコーヒーが売りたいの?ビジネスがしたいの(儲けたいの)?』です。 そう、小生は初めに打ち立てたコンセプトが何かでボケてしまっている事に 気づいていない人種なのです。
しかし、世界はもっと明確で早い展開をします。 特にアメリカなどは4半期ごとに収益性を計算されて良し悪しを判断される為に、 高い理想を早く実行し、早く収益をもたらさないと、 それは単なる自論でしかなくなるからです。 日本のように2年間はじっと・・・などということが無い分、 当然デメリットも生まれるわけですが、 世界の流れについていくことはコーヒーの業界では必要不可欠なのだと、 ここ数年間の流れを見て感じ取れます。
これは色々な国の、色々なコーヒーの業種の方と話すと気付きます。 (あまり英語が得意ではない私にとって、メールという機器には常に感謝しています・・・。)
そうなんです。世界のコーヒーは思っている以上に急速に変わっているのです。
これは仕掛ける方(売り手)と買い手がトレンド作り上げ、 上手くコントロールしているという事なのです。 今日のスペシャルティ品質が、明日のプレミアム品質・・・(格下げ)になる可能性は 今後充分に孕んでいると思います。
常に流れに乗るのではなく、世界の流れからトレンドを作ることが、 今後の生き残りで重要であると世界を見て感じます。



我々の仕事。
産地に足を運んだ時、
現地の農園、エージェント、シッパー(輸出業者)などがアテンドしてくれます。
半分は彼らからの紹介される農園などを周って品質などのチェックをしていきます。
そこで品質の高さや、生産方法、 実際に日本で支持され売れそうか否かを判断していきます。 昔ならほぼ100%このような状態で産地を周っていましたが、 メール、ネットが発達した今、時には無駄な時間・・・と感じることも正直あります。
こうしたなかで、最近小生が注意している点が1つだけあります。 明確に見つけたい商品を探す、作るということを重点的にいる事です。 言葉で言うのは非常に簡単ですが、 見つける以上に<1から作る>事は本当に至難の業だと毎回帰国して痛感します。 まず自分たちでコンセプトを決めます。
当然ここに品質や、味や香りのファクターを大まかに考え、 <こんなコーヒー>という枠組みをします。
そうすると今までの品質検査をしたデータを睨みますと、 自ずと適した産地、生産方法、品種などが選択されていくのです。
しかし、実際には色々と判断が付かないリスクも存在し、 商品によっては農園側に必要性を話し、特定の苗を買って、 植え付けからする場合もあります。 この場合、収穫して初めて日本に来るまで4年〜5年もかかります。 (ただし木が若いと思った品質にならず、 本当に欲しい品質までには7年以上もかかります。)
しかし問題はこの後で、農園のメンテナンス方法が適していないと、 送られてくる商品が思った通りの品質になっていないことが過去にもたびたび発生します。ただし当社で依頼した以上、それは全て買取りを余儀なくされ、 入荷後にディスカウントで処分・・・という羽目になってしまいます。
昔は『もっと素晴らしいコーヒーがどこかにあるのではないか?それを探しに!』と 意気込んだ時代もありました。
しかし今は、蓄積したデータから新しい味を作ることを考える方が、 結果的にお客様に納得していただけるような気がしています。 そこには我々の思いや、農園の苦労など、 <生みの苦しみ>が加わっているからかもしれません。 世界の品質の流れを読むと、我々のような原料をビジネスにする業種では 既存の商品では勝負できないような気がしてなりません。 そう、創造する力こそが、我々に問われているような気がします。

今、生産地は何をしているのか?

ありとあらゆる生産地を見たわけではないので断定することは避けますが、 世界の生産量(大まかに言って60kg換算/1億2.000万袋)の中で、 管理されずに農園で作った、庭先でできた、ほとんど自然任せ・・・というコーヒーは 2/3くらい(本心はもっと多いと思いますが・・・)なのではないかと思います。
一方スペシャルティコーヒーは生産量の5%とか、 10%(基準によって代わるので、この辺は触れません。)と言われますので、 1.000万袋くらいなのかもしれません。 この中でも特に特化したコーヒーが作れる農園は、 当然世界のバイヤーと日々コンタクトを取り、次世代の味つくりを行っています。
・・・なぜでしょう?
長く消費国と取り引きしないと経営できないのが大前提にあり、 手間隙をかけて、高く売れないと、農園の維持が出来ないという現実があるからです。 つまり長く、かつ高額なコーヒーの供給こそが農園維持に必要となのです。 コーヒーの生産は非常に人の手に委ねられている点が多く、 まず人件費の割合が高い農作物です。
昔は搾取された民族(原住民など)、 低所得者層(スラム街に近く、ブラジルのファベイラのようなエリア)などが 生産現場に多く見受けられましたが、 今のように第一次産品がアメリカの国際先物相場で決定され、 管理された大型農園に投資される時代になると、 コーヒー農園もいい加減な雇用は出来なくなります。 また、ブラジルのように国が工業化するにしたがって、 人手の確保自体が厳しい時代が到来し、否が応でも長期契約、 賃金アップで労働力確保が必要となっていきます。
ついでに言うと、現在のコーヒー生産国の多くでは農薬、肥料が輸入に頼っており、 ここ数年間でかなりコストアップしています。
昔みたいにランニングコストが安い商品ではない・・・
というのがコーヒー生産の現場です。少し話がずれました。すいません・・・。 こうした現実から、農園では必死に将来を見据えながら経営とビジネスを行ってきます。 そうすると1つの農園管理手法という発想が生まれます。 今では<トレーサビリティ>と呼ばれていますが、履歴が載っているシートがこれにあたります。
このトレーサブルシートは農園を幾つかに区切って管理するもので、 (農園によって多少異なりますが。)広さ、樹数、品種、植え付け年度、 植え付けの間隔などが基本データとして入力しています。
そこに年毎に開花期、収穫日、乾燥日、精選日など 生産上の行程日報、施肥、剪定など農園管理項目が入力されて品質の管理に役立てます。
しかし本当に農園が必要としている点は、 1年間の肥料代金、人件費、収穫量、品質(カップテストで決定)、販売金額などを入れて、区画ごとの収益性を計算しているビジネスシートだと思っています。 ここでの可能性(もっと品質を上げて、高額商品を生み出せるのか?)などを 模索するに当たり、このトレーサブルシートが間違いなく一番重要性をもっていきます。このため産地訪問時には、区画ごとにカッピング (コーヒーの官能テスト:これで品質を確認する)を行い、 日当たりの条件などを含めて、将来的な品質創造の打診を行っていきます。 また我々が訪問する際、農園のゲストルームには各国バイヤー数名が一緒・・・ ということも珍しくありません。 ここでの夕食などでのやり取りを見ていて、新たな発見はよくあります。 日本人の発想に無いものを将来的に打診する姿など、まだまだ勉強が足らないな〜と感じます。

生産地は何を求めているのか?
生産地が求めるものは<長く付き合いたい><高く売りたい>とは先程言いました。
少し語弊があるといけないので補足しますが、現在の世界のコーヒーの価格は、一定の品質基準が存在し、前述のカッピングである程度計算出来るようになっています。
品質と価格は常に一定になっているので、高額な商品とは高品質な商品であり、それだけの価値を持っているということです。 単に同じ品質で高く買う・・・ということではありません。 そうしますと生産国では、消費国サイドで売る力がある企業とパートナーシップを結ぶ傾向は年々強くなります。
消費国サイドで得た情報は産地にフィードバックされ、 品質の安定化と、創造を繰り返していくのです。 つまり産地が望むのは2つあり、現状を適格にフィードバックして品質の安定化策を図る事と 味の創造など、前向きな話しができるパートナーを探しているということかもしれません。 一般的にビジネスにおいては買い手市場といわれます。 コーヒーのビジネス全体から見ればこの傾向は否定しません。
しかしスペシャルティコーヒー、特に<トップ・オブ・トップ>と呼ばれるほんの一握りの生産地では、世界の供給量があまりにも少ない為 完全売り手市場になっています。いくらでも買えるほど高品質なコーヒーはありません。 だからこそ我々は、農園から選ばれる企業でありたいと 常にサジェスチョンを世界に送っています。
売り先はあるが、売るものが無い・・・これが現実とならないよう日々精進です。



小生にとって美味しいコーヒーは何か?
美味いコーヒーは飲む人の嗜好によって異なります。 飲用シーンによっても変わりますので、
まず小生が思い描く<好きなコーヒーの変遷>を述べます。
30年前まだ小学校であった小生は、土曜日の「8時だよ全員集合!」を見ながら点てる親父のサイフォンに憧れていました。牛乳たっぷりでコーヒーの味というよりも、色が付いた牛乳が凄く魅力的だったことを覚えています。 ただ味は、苦い・・・しか記憶にはありません。
高校時代、校則が無い学校で毎日クラブの後は喫茶通い・・・。
途中校長先生から特別に1週間お休みを頂いた時も、喫茶店で自習していたのを覚えています。 しかしコーヒーが美味い!と感じていたのか疑問です。 格好良いという程度だったかもしれません。
大学時代、喫茶店通いに拍車がかかり、バイト代の大半を自家焙煎で使っていました。
この時も美味い不味いよりは、店の雰囲気などが気になっていた時代です。 しかし、コーヒーの味に興味を持ってしまったのもこの頃で、1年間大学を休学し、ブラジルにコーヒーの留学のチャンスを得ました。 しかしここまでは良い経験であったのですが、プロとしてコメントできるものは全くありませんでした。 その後大学を卒業してロースターに勤務する頃には、明確に好き嫌いがはっきりとしてきます。
留学時代に学んだ品質管理が判断の全てで、ブラジルのモジアナ地区のコーヒーのような、
少し癖があり濃厚なナチュラルのコーヒーが好きでした。15年前今の会社に転職した頃ですが、 当時グルメコーヒーと呼ばれるコーヒーを販売しており、 会社でも物凄い勢いで飲んでいた時代です。 出勤してから夕方まで、本当にサンプル用の焙煎機の前で過ごしていました。
この頃は品質管理というよりは、 自分が飲みたいコーヒーの焙煎しかしてなかったのかもしれません。 この頃はよく行っていた神戸の自家焙煎に似せて、 グァテマラ、タンザニア、マンデリンなどの高地産の深煎りを愛飲していました。 数年して営業のセクションに入り少し転機が訪れます。 色々な会社に訪問しコーヒーを飲むうちに、 なぜか浅煎りの透き通る様なコーヒーが好きになっていったのです。 というよりはその会社、そのオーナーの考え方が好きになったのかもしれません。 オーナーの話を聞きながら出されたコーヒーを飲むと、 まるでその人の魂が入ったようなコーヒーに感じることがあります。 ある意味究極の味つくりを学んだ気がしました。 それから5年ほど前、ちょうどスペシャルティコーヒーを本格的に扱い始めた時ですが、会社でも自宅でもかなりのコーヒーを激飲する小生は、 華やかな香りで、透き通るような酸味があるものを非常に好むように変わりました。 こうしてみて見ますと自分のおかれた立場、周りの環境によって <美味しいは変わる>ことを痛感します。 昔々、『コーヒーは学習して飲むものだ!』と先輩から言われたことがあります。
何気に飲むとコーヒーは単にコーヒーですが、 考えて飲むとその奥深さが理解するものだと思います。 皆さんも少し考えて飲んでみては如何ですか?


コーヒーの素晴らしさは何か?
<コーヒーの素晴らしさは何?>というえらそうなタイトルを付けましたが、 つまりコーヒーはその場面場面で変わり、 多くが回りの影響を受けているのではないか・・・ というのが前述の通り小生の中では答えです。 小生が現在華やかな香りを好みといいましたが、 実際には抽出方法、飲用方法は場面で変わります。 朝は細かめに挽いた中米のスペシャルティグレードの深煎りのコーヒーを 低温でドリップします。これをかなり濃い状態にして牛乳をいれて飲みます。 休日の昼は、2ハゼ前あたり(朝よりは少し浅め)の 中米のウオッシュドを荒挽きにし、これは少し薄めにしてフレンチプレスで点てます。 また、夕食後は朝と同じドリップに戻ります。 しかし夕食後は牛乳を入れずに飲みます。 多い日で3L以上飲むのですが、必ず飲用シーンによってカップ (というよりは入れ物程度です)なども変えています。 全てのシーンでマッチするコーヒー、 つまりは絶対にこれ!というのは私には未だ出会っていないからです。 しかし素晴らしいコーヒーと思うためには1つの鉄則があります。 我々のように産地に足を運ぶようになると、何らかの要因で味の個性が出るもの、 農園の風景が浮かんでくる様なものがあります。
例えばその産地独特のキャラクターや、 品種独特のキャラクター、独自の生産・精製方法のキャラクター・・・などなど。 こうしたものがはっきりしているものほど大好きで、 飲んだ瞬間に農園の風景が浮かび、 オーナーの必死な姿を想像させるものを素晴らしいと感じています。 コーヒー農園は何かを伝えようと高品質な商品を作っているからこそ、 それが浮かぶものを素晴らしいと感じています。 我々はそんなコーヒーが世界中にあふれることを願っています。 単に好きか嫌いか(好みか否か)では無く少し見方を変えて、 農園のメッセージを汲み取ってみるのも面白いと思います。 あ、忘れていました。
当然加工するロースターもその一役を担っており、美味さを増幅させております・・・。

最後に。

我々のビジネスの中で<コーヒーの素晴らしさをどうやって伝えるのか?>は重要な項目です。 本当に素晴らしいと感じるコーヒーも 飲めば簡単に判るほどではないというのが正直なところだからです。 ただ色々な方と一緒にカッピングをし、小生の考え方などをお話させていただくと、 その方の嗜好はだんだんと変わってきます。 小生にとってコーヒーを売ることはビジネスとして必要ですが、 コーヒーの素晴らしさを伝えることはそれ以上の仕事だと思っています。 学生時代にブラジルに留学した時、1日に膨大なサンプルが運ばれ、 全てをカッピングして買い取り価格を決定していくセクションに勤務していました。 その1年の中で2ロットか3ロットだけ、 身の毛がよだつような感動的なコーヒーに出会ったことを今でも覚えています。
素晴らしい音楽を聴いて勝手に涙が流れるような、 素晴らしい絵画を見て鳥肌が立つような、全く同じ感覚がそこにはありました。
私のコーヒーは本当の意味でここから始まったのかもしれません。
そして今も、その時のコーヒー以上の物を探しているのかもしれません。 ブラジルから戻って今年で20年、 あまり進歩していないな〜と夜な夜なコーヒーを飲んで感じます。

井上英司

ワタル(株)

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